岡山大学俳句研究部より、5月の俳句が届きました。
今月の句は「永き日や運指練習の教則本」です。
解説
運指という言葉、音楽に詳しい人なら聞いたことがあるかもしれないが、そうでない人にとっては余り聞きなれない言葉かもしれない。むしろ、音楽界では、英語で「フィンガリング」と呼ばれるので、そちらの方が一般的であるかもしれない。特定の楽器を演奏する時の「指使い」のことで、どの指と手のポジションを使うかの選択を指す言葉である。
何を隠そう、筆者は音楽が他の何よりも好きではあるが、楽譜はトンと読めず、楽器という楽器に対し、譜面に、運指まで記載されているなどということなど知る由もない。ピアノ以外にも、ギター、バイオリン、チェロ、サクソフォーンなどあらゆる楽器に対し、必ず運指が記載されていて、作曲者が記載することもあれば、編曲者が、はたまた演奏家が自分の弾きやすいように自身の運指を記載することもあるそうなので、一言で「運指」と言っても事情はなかなか複雑だ。
さて、掲句。
「永き日」は春を示す季語である。5月に入ると立夏を迎え、暦の上では、いよいよ夏に入ることになるが、永き日は、冬の間の昼間の短さが、春を迎えて次第に長くなっていくことを指す。実際には、昼の長さは、夏の方が長い訳であるが、にも拘わらず、「永き日」が春の季語とされる背景には、長い冬が終わり、待ちわびた太陽が顔をのぞかせている時間を、いとおしく感じ、昼の時間が少しずつ長くなっていくその変化の度合いが心理的に長いものに感じられることがあるからであろう。
掲句の選者は、「この句を読んで、日が永くなってきてほがらかな気持ちで過ごしている昼下がり、ギターの練習を始め、不慣れながらも楽しく弾いている様子を思い浮かべました。中七・下五の空気感が季語とマッチしていて、春のほのぼのとした雰囲気が伝わってきます。また、やさしく光に照らされている本に焦点が当たる描写を軸とした構成も巧みだと思いました。」と感想を伝えてくれた。
一方の作者は、「日永という季語を使うだけで、楽しくないことの多い運指練習を強いられている人物にも、何故か余裕が生じて、まるで楽しんでいるかのように感じられる。この人物は何らかの楽器の初心者であることがわかるが、運指練習も速く弾ける訳ではなく、少しずつゆっくりと練習しながら上達していく音も想像できるのではないか。」と作句の動機を語ってくれた。
筆者の娘二人もピアノ弾きであるが、幼い頃は日の暮れるまで、否、夜になるまでピアノの練習をしていた姿が思い出されて懐かしい。何度止まっても、また戻って同じところを弾き直す、あの忍耐力には感心したものだ。
中七・下五の字数が、当初、些か気になったが、何度も読み直す内に、字余りが繰り返し繰り返し同じ個所を弾き直している幼子のかわいらしい健気な姿と重なってきて、鍵盤を敲く音まで聴こえ来るような長閑な春の景を思い出させてくれた佳句である。
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